3月のライオン8巻レビュー〜限界をこえたその先に見えるのは〜 by パン友

こんばんは。
寒くなってきましたね。皆さん風邪などは引いておられませんでしょうか、パン友です。
昨晩は中々寝つけず、一人部屋からふたご座流星群を眺めておりました。オリオン座近辺を幾度となく駆けていく星々を見ていると、最近抱えてていた不安や寂寥感を少しだけ忘れることができました。

その不安云々については、立場上ここではあまりにアレな内容であるため書きませんが、そういったネガティブな精神を少なからずも癒してくれたのは流星群だけではありませんでした。
今回紹介する『3月のライオン』は、私にとって割と心の深いところまで染みいらせてくれる、そんな作品です。
当ブログの管理者二人による怠惰のため更新頻度が極端に減っている最近ではありますが、毎回この漫画の感想については多くの閲覧者様がいてくださるようで、日頃から感謝の気持ちで一杯であります。(特に3月のライオン7巻についての感想は某検索サイトでエゴサーチをかけたところ、未だ1ページ目で表示されていてなんだか恐縮してしまいます…)


 〜過去の3月のライオンの記事リンク〜
3月のライオン5巻感想

3月のライオン6巻感想

3月のライオン7巻感想


それから関連記事としてこんなのも書きました。
映画『学校の悪魔』に見る、“いじめ問題”の現時点における個人的見解

毎回意気込んで感想を書けているのは、私の精神衛生上にもとてもありがたいことだと感じております。
なので今回も自分なりに頑張って書いていこうかと思いますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです。。

3月のライオン 8  手帳付限定版 (ジェッツコミックス)

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さて、改めてこの8巻ですが、酷くざっくばらんな書き方をすれば、これは『負けることについての物語』です。

前巻までの話の流れについては私が書いた7巻の感想をご覧になって頂きたく、今回はその続きの御話から。


零君と宗谷名人との一騎打ち。

結果は、零君の負け。
これは彼も言っている通り、これまで踏んできた明らかな場数の差と、歳の違いというものもあるのでしょうが、それ以上に既に零の中で神格化されてしまう程には、決定的な壁があったのは伝わってきます。


しかし零はこの対局を心の底から楽しんだ。


これって凄く幸せなことだよなぁ、と。
別に将棋の世界に関わらず、日々何かと闘い、敗戦を重ねる中で強くなれている人は多いでしょう。
社会人なら仕事、学生なら勉学や部活動、また年齢関係なしに家庭や恋愛など、その闘いの舞台は様々であるはず。
この漫画の主人公である零もまた自身の全身全霊をもって巨大な敵を相手にし、結果成長していることがその後の展開を見ていてもわかりました。


なんというか、私の場合正直零君に嫉妬してしまいました。

私も今の生活の中で悩むことは多々あるのですが、彼のように自分と全く同じ土俵で、他の要因に憚れることなく挑むことができる環境といえるかというと、中々難しいというのが現状です。
一応教育の末端で生きている人間として、日々子どもたちと真剣に向かい合うという勝負の場があるにはあるのですが、どうしても完全に対等な関係でいられるかと言えば、果たして…、という感じ。
またどんなときでもやはり他者が介入している場合が多いので、本当の意味でのガチンコバトルなんて機会はそうそうなかったりとか。
まぁ、時には力ずくで制止しないといけない場面などもあるにはあるのですが、それもこちらが常に冷静な感情の下、一歩先を見据えている状態が望ましいわけで、零君のような闘いの場を得られているという実感は湧きづらい。


本気で、しかもこの若さでそれを体験できている零君はやはり恵まれていると思うし、これを経験したことで更なる高みへと登っていけるのだろうと感じました。



…でもその宗谷名人にも、重大な秘密があったことを知る零。

音が聴こえない世界の中で、ただ自分の進むべき棋譜だけを見据え、将棋の鬼と化した宗谷。
私も職業柄そういった障碍を持った方と接することが多いのですが、よく驚かされることがあります。


(こういう人って、“音以外の何か”が聴こえているんじゃないか・・・?)


有体にいってしまえば、そんな身も蓋もないある種差別主義者のような感覚を抱いてしまうことがこれまでにもありました。
…いや、自分でもそれってどうなのかとは思うわけですが、彼らの中には“音以外の感覚”に非常に敏感な方っていうのが結構おられると感じたのですよ。
それが本当にあるのか、またあったからといって何かしらメリットがあるのか、などは私の勉強不足もありはっきりとしたことは言えませんが、それでも純粋にそう感じてしまう機会があったことを、この宗谷名人の設定を読んだときに少し思い出してしまいました。

 〜参考〜
『盲人の夢の世界』 存在しうるのかどうか…BIGLOBEなんでも相談室より)
今回のお話とは直接関係はありませんが、個人的に興味深かったので掲載しておきます。

…ただまぁ、“そういう事情”を知ったところで今後の零君の打ち方に大きな影響がでるかはこの時点ではわかりません。まさに作者のみぞ知るってやつですな。。



幕間。
ここで癒しの3姉妹登場。


うん、可愛い。。

こんな愛おしい人たちに待ってもらえるなんて、零よ、なんて幸せモノなんだ・・・


場面変わって二階堂。
C1ランクで手痛い2敗を喫し体調不良も相成って落ち込んでいると思われていた二階堂であったが・・・


この表情である(笑)
彼は彼で打てない状況でも将棋のことをずっと真剣に考えていたことを知り、思わず笑みが零れる零君。


うん、青春すなぁ・・・



そして新編。
零や二階堂の師匠であり、初タイトルをかける島田八段と、方や永世獲得目前の柳原棋匠による棋匠戦。


これが素晴らしく面白かった。
本編ではこれまで地味ながらも(笑)、着実な将棋で勝ち上がってきた島田ではなく、既に歴戦の長であるところの柳原が主役となる。

この配役の切り替えが、本当に凄い。
こういった読み手の主観となる語り手を(他脇役も)意図的に代えることで物語の深みを見い出す手法は、個人的に少女漫画などで多く見られる技法だと勝手に思っている。
最近は少なくなったが、所謂少年漫画などの熱血主人公による成長ストーリーなどとは少し違い、少女漫画では主に恋愛などの主軸を元に、激しく主人公周辺の感情描写が入れ替わる描写が続くが、この作者は自分がこれまでいた畑での経験をここぞとばかりに活かせていると感じた。

これまでもそういった表現は本作でもよく見かけていたが、今回まさかこういった人物にまで当て嵌め、描ききってしまうとは・・・

普通ならただ“越えるべき壁”として、どう攻略するかを主人公に悩ませる程度にしか描かれないことが多いと思うのだが、作者は見事にこの“老いた鬼の苦悩”を表現している。
ここでまず感動させられる。


話を戻し、ここでも結論から言ってしまえば、柳原が勝ち、島田は負ける。
正直、島田スキーな私としてはかなり辛い展開ではあったのですが。。

ただ島田の対局は決してお粗末なものではなく、格上の柳原を心身ともに大きく疲弊させるほどの大一番でした。


そんな彼を支えたのは、仲間たちとの絆であり、雁字搦めに縛られた“たすき”の存在。

老いた柳原にはあまりに重く、そして大切なものでした。

並みの精神力では太刀打ちできないはずの圧力に屈することなく、彼は最後まで戦い抜き、そして勝利した。


その闘志たるや、受け立つ者の余裕などなく、生き恥を曝してでも喰いつかんとする、若き挑戦者のそれと同じ。
二人の白熱ぶりに胸を熱くさせられる中、終局後の彼の言葉が突き刺さってきた。


これは・・・、凄いですよね。
極限まで戦い抜いたその先で、まだ先を見据えようとするその力強さに、ただただ圧倒させられます。


またも私事で恐縮ではあるのですが、最近は来年以降の身辺の変化に合わせ、自分のこれまで日頃行ってきたことなどに見切りをつけ始めていました。
友人達が言う通り、ある意味“逃げ”でしかないとも思うのですが、今にして自分の不器用さに嫌気がさし、そこから離れる準備をしていたのですが、そんな中こんなのを読んでしまうと非常にクるものがあるわけで・・・


うん、これ先週友人からまんま同じ事言われたのですよ・・・(苦笑)
彼と同調できほど成長もしていない、全然アマちゃんである私ではあるのですが、改めてその意志の弱さに打ちひしがられたり…
何かを決断するには、もっと色々と知った上での覚悟が必要なのだと、気づかされた次第です。。



閑話休題

そしてその大対局を終え、舞台は一転再度3姉妹の御話へと彩を変えていきます。
和菓子を作って商店街のイベントで販売するだけの、羽海野ワールド全開なまった〜りな御話。。♪


…ではありませんでした(笑)
お話は前巻までのひなちゃんのお話の事後経過について語られていきます。


これがね、本当に心を抉られてしまうわけですょ・・・


いじめを受けた子どもは時に自分の周り全てを恐れ、拒絶してしまうこともある。
そしてその苦しみから抜け出るには、相当の努力と時間が必要であり、また何より家族など他者による支えが大事になってきます。


その上で段階を踏んで修正を試みるも、必ずしも立ち直れるというわけではない。


これほど重く、残酷な話はありません。
そしていじめられたちほちゃんにとって、このひなちゃんが優しい存在で在り続けていてくれることの救いといったらもう・・・、、


くぅ〜・・・っ!っとね。。




そして、その続きとなる新作がヤングアニマルでも読めちゃいます。


うわぁ・・・

ここにきて担任の変更とか、学校内部の現状に少なからず近い位置で知る人間としては色々と居たたまれない気持ちになってきますな。。
でもま、こういうのも現場ではよくあることなわけでして・・・

この新担任の言うことも良く分かる…、というかこれまで本事件に直接かかわってこなかった教師の言葉としては凄く一般的かもしれません。
確かに加害者といえ、まだ中学生という未熟な立場にいる子どもへの言葉としては冷たく感じるかもしれませんが、現実的にはこの程度の配慮しか持ち得ない教員というのも、割と多いのではないかと。


でもこの学年主任は違った。
加害者生徒とも真っ向から向かい合い、教育論など関係なしに、己の言葉で考えを提示する。

教師だって、わからないものはわからない。
だから先生は、、


うぅむ…、格好良いです。憧れます。
こういう話ができる先生は、本当に凄いと思います。


これで何を思うか、それは勿論この少女に依るわけですが、向き合い方としてこれ以上の対応は、現在の未熟な私には思いつきません。


いまだメディアに蔓延るいじめ報道、そしてそれを流し見るだけでは決して見えてこない部分。
それこそがこういった現場での直接的な指導であり、最重要課題であるのは言うまでもないわけですが、そこに着眼点をおいた記事を見かけることは、この業界にいてもめったにありません。


何度でも言いますが、いじめ問題は実際どこでも起こりえて、最早画面を通した“自分とは直接関わりがない話し”ではないのです。
その辺を常に心に刻み、学校内は勿論、世に生きる全ての大人が真剣に考えるべき議題であると知るべきなのです。

 〜参考〜
いじめをなくすために必要なこと(いじめ撲滅ネットワーク)
↑割とわかりやすく纏まっております。
いじめ対策のリソースは、担任へ「3月のライオン」 (わたしが知らないスゴ本は、きっとあなたが読んでいる様より)
↑少し前に話題になった記事ですね。教師向けのいじめ110番窓口などは良いアイデアだと思いました。しかしクラス担任のリソース割り当てをこれ以上に幅広く行っていくには、各所に配置されている教員数にも依るけど、現状中々厳しいような気もします。。
…あと余談ですが、あのまったりな食事シーンをセックスの代替物としては流石に見れないすわ。。上級者すぎてぇ・・・


書籍は以下。

いじめとは何か―教室の問題、社会の問題 (中公新書)

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入門 いじめ対策―小・中・高のいじめ事例から自殺予防まで

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世界にたったひとつ 君の命のこと

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私もこれについては勉強を続けていきます。
何かが見えてくると信じて。。



以上。
3月のライオンをここまでの時点で簡単にまとめてみました。
かなり自分語りが多くて読みづらい文章だったかとは思いますが、最後までお読みいただきありがとうございました。




次はガンスリについて書きます。(あくまで予定←

GUNSLINGER GIRL(15) with Libretto!II (電撃コミックス)

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