バレていた。  by パン友

今あるのはどうしようもない虚無感と、背徳感。それと僅かばかりに湧き上がる陶酔感だけ。


まぁね、最初からなんとなく感づいてはいましたよ。
俺のことを厳しくも、いつも気にかけてくれたYさん。
今日の飲み会の時だって、まだ不慣れで幹事の仕事を手伝ってくれていた。
あなたがいなければ、俺だってもうとっくに会社を辞めていたでしょう。
でもさ、飲み会の最後、みんなが席を立ち始めていた時のあの一言、効きましたぜ…


「ま、お前も教員になってこの会社辞めていくんだろ?」


その一言に対し、俺は何も言えずにただ口をパクパクさせるだけでした。
あのあとの一瞬だったはずの時間は、俺にとってものすごく長く感じました。
早く何か言わなければ。言わないと、他のグループの方にもそう思われてしまう、と。


「ダチのAがさ(会社の総務)、言ってたで。あいつ故郷戻って社会のセンセやるんやって。そんでお前んとこの新人も多分そうやろって。違うんか?」


もう止めてくれ。
そう思う反面、もっと言ってほしいっていう、奇妙な感覚。
背中から何か冷たいものが這い上がってきて、俺の耳元でつぶやいたような。
(ほら、バレちゃった…もうお前の居場所はここにはないかもしれないぞ)と。
総務のAさんは、入社時から俺ら新人を色々サポートすることがあり、新人みんなの心の支え的存在の人だった。
大阪出身らしく、口調が軽く兎に角明るい、いかにも総務って感じの人。
誰からも愛されるような人だ。


でも、俺はその人が最初から苦手だった。
もともと人見知りなのもあるが、こういう無駄に明るく、逆に本心が見えない人間は怖い。
だから、その人の前では一応明るく、元気な新人を装ってみたものの、結局こっちが見透かされていた。
しかも一番尊敬している先輩と仲がいいもんだから、すべて筒抜けだったのだろう。


先輩Yさんの発言からやや間があって、俺の直属の女性上司Nは言った。


「あーぁ、あと何人見送らなあかんのやろうなぁ…」


それは諦めたような、達観しているような声音だった。
正直、俺はこのNさんが苦手である。
育児休暇から戻ってきて今年くらいから今の俺の職場に復職してきた彼女は、とにかくやり手な人で、仕事をバンバンこなす所謂できる人間。
こういう人は上辺だけの愛嬌なんかは通用せず、ある程度の成果を求められ、知識も技術もからっきしの俺は最近コテンパンだった。
まぁ、けどそれはそれで良い。


俺には別の道がある。
この仕事はとりあえずの架け橋にすぎず、金と住む場所さえあればなんとかなると、どうしようもなく若く馬鹿な俺は思っていた。
逆にこんなやる気のない俺を信用して雇っているこの会社が不憫なくらいだと、そんなふうに思っていたのだ。


でも、やはり教師志望の人事さんには知られていたか…畜生。
まぁ、なんとなく予想していたといえばそうだ。
あの表情やお互い腹を割らない、煮え切らない会話の中にそう感づくものはあった。


普段俺は職場でも適当な愛想笑いと、適当な勤務態度で、仕事を頑張っている新人君ですよー、とアピールしてきたつもりだった。
ひょうきん振るつもりでロリコン趣味の変態キャラまで装って。
これならあんま女性交際に興味がないことにも理由がつくし、なにかと都合が良かったのだ。
しかもロリコンなら教員はタブーと考えもしないだろうし…(実際は別にロリでもひょうきんでもないのに、みんな簡単に信じてくれちゃって^^)
それでなんとか転職志向があることまでバレないと思っていた。
俺が教員免許持ってることなんて、総務か本社くらいしかしらないだろうし…
でもま、甘かったんだねぇ。。


とりあえずAさん、新しい道が開けておめでとうございます。
20年くらい経ったらまたじっくり語り合いたいものですね。

そして、肝心の俺はというと、ひどく不安定な状態です。
このまま辞めてもいいなーという反面、その人の予想通り、もう少し騙せる限りだましてこの会社に居続けて、そんで教師になってもいい。純粋に、教育に興味はあることですし…


それに仮にすぐ教員になってもそれほど長く勤めることはないのだろう、とも。
おそらく俺はあと10年くらいは定職、天職というものにはつかないと思う。
ていうか就けないかと。


いずれはどっかでなんかしたいですが(モノ書いて訴えたりとかね)、それもいつまで続けるかはわかりません。
俺はどこに向かうんでしょうかね。
全くわかりません。